書評『ウルトラの金言‐人生を戦い抜くための勇気と知恵‐』
皆さんこんにちは。
桜鬼です。春の足音を感じつつある今日この頃。
如何お過ごしでしょうか。
当ブログでは、ブラジル音楽だけでなく、私が大好きな特撮作品についても発信していくことにしています。しているのですが、ここで問題が一つ。
何について書こう・・・
中々内容がまとまらないのです。
特撮作品と一言で言っても、シリーズが沢山あります。
ウルトラマンや仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズといった有名どころのヒーロー作品や、ゴジラやガメラなどの怪獣映画。
それらに含まれない特撮ヒーローも世の中に数多く存在するため、題材は沢山あるけど、絞り切れずに困ってしまっているのです。
しかし、何か書かずには始まらない!ということで、私が学生時代に執筆した書評の改訂版を特撮関係記事の第1号として皆様にお届けすることにしました。
それでは、下記よりどうぞ。
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書評『ウルトラの金言‐人生を戦い抜くための勇気と知恵‐』
書店に並ぶ新書は数多い。
その中にウルトラマンがスペシウム光線のポーズで映っていると、特撮ファンとして立ち止まらずにはいられない。
本書は、今までありそうで無かったウルトラシリーズの「名言集」である。
登場人物たちの台詞を通し、私たちが生きていく上で必要なものを探る。
扱う作品は、「ウルトラQ」から「ウルトラマンレオ」までの7作品[1]。
シリーズの言葉には、当時の世相や風潮を含め、今を生きる私たちへのメッセージが込められている。
その中から、東日本大震災や原発事故、いじめや戦争といった現在の世界を覆う不安を打ち破ろうという姿勢を提案しているところに、本書の特徴が表れている。
ただ、著者の思惑か、表面上は受け流すようなセリフの中に深い意味を持たせ過ぎている部分がある。
ナレーションの台詞や、状況説明なしでは月並みなやり取りになってしまう言葉は、「名言」と呼ぶには相応しくない。
従って、本書は名言・金言集というよりも、引用句として作中の言葉を使い、何らかの感想を述べる形式のミニ・エッセイ集と言える。
本書で選ばれた名言は、昭和ウルトラマンの「歴代シリーズ」から収録したという割に、作品によって数に偏り[2]がある。
例えば、「ウルトラマンレオ」からは収録された言葉が1つしかない。
レオの劇中、特に「特訓編」と称される第1クールでは、ウルトラマンとして、地球人として未熟[3]な主人公のレオに対し、ウルトラセブン[4]が檄を飛ばし鍛える場面が多かった。[5]
そのような場面で発せられた言葉の中には、厳しい現実を生き抜く指標があった。
また、収録作品に所謂「第3期シリーズ」[6]は含まれていない。
昭和シリーズに位置しながらも除外される傾向[7]がある同シリーズだが、特に「ウルトラマン80(エイティ)」は中学校教師という設定[8]もあり、作中では自身の生徒に教える形で、彼のメッセージを伝えている。
例えば、失恋した生徒に80が送った「愛しているから愛されたい。愛されないから腹が立つ。でも、本当の愛って、そんなちっぽけなものなのか?人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな。」という言葉は、愛に対する一つの提言だ。
生きるためのヒントを探すのならば、80の多くの言葉は、本書の方針に合致していたはずである。
つまり、著者の思い入れと思惑が、「歴代シリーズから収録」と銘打つ意義を少々薄れさせているのだ。
しかし、それでも本書は決して陳腐な名言集ではない。
それは、人生を戦い抜くための勇気と知恵を登場人物たちのセリフから探ることが出来るという、ウルトラシリーズの「奥深さ」故である。
特撮ヒーローは、「子供向け」と評されることが多い。
しかし、「子供向け」と「子供だまし」は違う。
特にウルトラシリーズの制作陣は、過度に玩具を売るためだとか、「子供向け」を作りの粗さの免罪符にするような方針を拒む傾向が強い。
そこには、大人たちの切なる叫びや世界への思い、最高の知恵を私達に届けようという、シリーズに懸けた人々の思い[9]がある。
だから、作中の様々な要素の中から言葉ひとつを取り出しても、時代を越えて私たちの胸を打つ。
根本は「子供向け」でありながら、実は社会風刺や人間が生きるための真理をズバリと突いている。
そのために、ウルトラシリーズは数十年経っても「大人も十分楽しめる」どころか、見る度に新たな発見がある。それが、ウルトラシリーズの奥深さなのだ。
故に本書は、「ウルトラシリーズ」がこれからも決して色あせることなく、その輝きが増す作品たちであることを、言葉を通して私達に示す1冊である。
円谷プロダクションは、2018年に創立55周年を迎えた。
これからも、真摯な姿勢で素晴らしい作品を作り続けてくれることを、しがない特撮ファンの一人として願うばかりである。
ウルトラの金言 人生を戦い抜くための勇気と知恵 (双葉新書)
- 作者: 牧詩郎,円谷プロダクション
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2013/01/16
- メディア: 新書
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[1] 「ウルトラQ」、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンエース」、「ウルトラマンタロウ」、「ウルトラマンレオ」の7作品。
[2] 書中で述べられているが、作者は「Q」、「初代マン」、「セブン」をリアルタイムで見て育った世代の人間であり、これら3作品から主に言葉を収録している。
[3] ウルトラマンレオは元々地球を守るために派遣されてきたわけではない。
実は、レオは他のウルトラマン達とは出身が違う。
故郷の星をマグマ星人に滅ぼされ地球に逃げてきた、いわば難民なのだ。
[4] 再び地球防衛の任を受け、防衛隊の隊長となったセブンだったが、マグマ星人に敗れ、変身能力を失ってしまう。
地球を守れるのは、もはやレオしかいなかった。
そこで、彼を一人前の戦士にするため、不本意ながらも過酷な特訓を強いる。他のウルトラマンはどうしたとか言ってはいけない。
[5] ちなみに、私のお気に入りは、第5話におけるダンの「体で覚え込まなければならないことを、口や頭を使って逃げ回るようなやつは足手まといだ!」というセリフ。
[6] 1970年代末期、SFブームの影響で、ウルトラシリーズが再びブームになった。
3期シリーズは、その際に製作された映像作品。「ザ☆ウルトラマン」(1979年、アニメ作品)、「ウルトラマン80」(1980年)を指す。
昭和のウルトラシリーズは、「Q」(1966年)、「ウルトラマン」(1966年)、「セブン」(1967年)を第1期、「帰ってきたウルトラマン」(1971年)、「A」(1972年)、「タロウ」(1973年)、「レオ」(1974年)を第2期と、テレビシリーズの放送時期で区分することが多い。
[7] 80放送終了後、ウルトラマンのテレビシリーズは、1996年に「ウルトラマンティガ」が開始するまで実に16年のブランクを空けることになった。
故に谷間の作品として、昭和のシリーズであっても扱われない傾向がある。
[8] ウルトラマン80に変身する「矢的猛」は、初期13話まで、「中学校の先生でありながら、防衛チーム(UGM)の隊員として活躍する」という設定だった。
[9] 円谷プロのスタッフは作品を製作する際、「予算や利益に構わず、とにかく「良いもの」を作る」という基本姿勢を貫いている。
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如何だったでしょうか?
特撮作品を題材にした記事の1発目がウルトラマンということで、まさに【ウルトラ作戦第1号】といった感じになりました。
特撮記事の題材は、これからも模索してまいりますので、どうぞ宜しくお付き合いください。